日本があぶない!恋愛小説の乱
黒猫:今回はまたずいぶん遅れたね。活字ラジオ。作者:す……すみません。黒猫:なんで?作者:えーと、あの、まあ、その、ですね……。黒猫:言わなくていいよ。どうせいつもと同じだろ。気がついたら過ぎていた。作者:……はい。黒猫:リマインダ設定をしておくべきだな。作者:してるんだよ、夕方六時頃に「今日は活字ラジオだ!」ってスマホが教えてくれる。黒猫:なのに、忘れるだと……?作者:前も言ったけど、夕飯食べてからやろうと思ってると忘れるんだよね。黒猫:夕飯の前に書け!作者:ううむ……悩ましいな。黒猫:何が?作者:いま、かりにここで「夕方六時に書きます」と言ったとするよね。ところが現実はそううまくはいかない。さまざまなものが壁となる。たとえば、晩御飯を作らなきゃならないとか、外食に行ったとか、で、そのあと来客があった、とか。黒猫:わかった、前もって書いておきたまえ。作者:それができるならさぁ、クロウはカラスって意味なわけよ。黒猫:クロウはカラスって意味だろう。作者:うん、そうなんだよね、そして、そのカラスはヴァニタス画にも登場するんだ、知ってた?黒猫:君、話題の変え方下手くそすぎないか?作者:ヴァニタスといえば、これよ、これ。『さよなら、わるい夢たち』 さよなら、わるい夢たち 1,620円 Amazon 黒猫:ちがうだろ。どこにもヴァニタス出てこない。作者:あ、間違えた。まあ、まだまだ絶賛発売中ということで。特典応募もよろしくということで。ええと、あったあった、こっちこっち。 葬偽屋は弔わない: 殺生歩武と5つのヴァニタス 853円 Amazon 黒猫:ドラえもんが道具を取り出すときみたいな間違え方をするんじゃないよ。『葬偽屋は弔わない 殺生歩武と5つのヴァニタス』が文庫化するのか。おや? もしかしてこの装画……。作者:そう、文庫版装画は丹地陽子先生にお願いしたんだ。どうだ! そして装丁はEsssandさん。黒猫:ううむ、美しい。この計算し尽くされたモチーフの配置、色彩のコントラスト……。作者:そしてヒロイン、高浜セレナの美脚。黒猫:僕が言わずにおいたことをわざわざ言わなくていいんだ。作者:この作品は、単行本発売時、意外と苦戦したんだけれど、数字のわりに読後感想が非常に好意的で、それが発売から1年、2年と経ってもまったく感想の出る率が減らずに読まれ続けていたんだ。黒猫:へえ、それはなかなかすごいじゃないか。作者:そう。そしてまあなんやかんやと僕自身ではよくわからん動きもあったりなかったりして、文庫をそろそろ出そうか、ということになった。黒猫:「なんやかんや」というのが含みがあってあれだな。作者:うん、まあ多くは聞かないでくれ。とにかく、そんなこんなで文庫も出したほうがいいし、シリーズ化して新作も同時期に出したほうがいいだろう、ということになった。黒猫:何があったんだ……「なんやかんや」が意外と大きそうだな……。作者:まあそこにはあまり触れてくれるな。黒猫:なるほど、まあとにかくそれで今回の文庫化なわけか。作者:うん。黒猫シリーズや偽恋愛小説家シリーズが好きな方にはぜひ読んでもらいたい作品だね。自分が死んだら、周囲はどんな反応をするんだろうっていうのは誰しもが考えたことがあるだろう。それを、偽の葬儀で確かめるのが〈葬偽屋〉だ。黒猫:『偽恋愛小説家』といい、「偽」が好きだね。作者:じつは〈葬偽屋〉の担当I氏はむかし朝日新聞出版にいて、『偽恋愛小説家』の最初の担当者だったんだ。黒猫:なんと!作者:まあべつにそれと「偽」が続いたのは関係あるようなないようななんだけどね。黒猫:関係ないのか!作者:ただ、人間というのはどこかで偽物な部分を抱えている生き物だし、ニセモノと本物って、みんなが考えているほど違うものではないと思うんだよね。たとえば、新入社員って名刺一枚でその会社の一員として取引先に認知されるんだけど、中身は素人もいいとこだったりする。自分が思い描いていたその業界の人間と自分とを比べたら、完全に偽物だろう。本物のなかにつねに偽物の自分というのはみんないるんだと思う。たとえば、僕は今年で作家活動六年目になるんだけど(あれ七年目だっけ…カウントの仕方がわからない)、いまだに自分が作家だと自覚しているところと無自覚なところを行ったり来たりしている。そもそもただ書かずにはいられない状態だけだし、それをやるためだけに高校時代から書いてきたところがあるから、執筆以外のことをやってもうまくできないだけなんだよね。だから自分が本物か偽物かにあまり興味がないわけよ。「作家たるもの」とかいううんぬんかんぬんもどうでもいいし、何も響かないしね。ちょっとばかりクソ喰らえとも思っている。だからまあ、みんな偽物じゃん、とどこかでは思ってるし、本当の死だってどこか偽な部分はあるはずだな、と思ったのが構想のきっかけだったかな。そういう意味では「偽恋愛小説家」と発想の源はおなじで、ある種の〈偽〉シリーズともいえる。黒猫:僕は単行本ですでに読んでいるが、ただ〈葬偽屋〉の活躍を描けばいいところにヴァニタス画の解釈が交錯するという趣向が、なんともややこしくて君らしいといえば君らしいね。作者:いちげんさんおことわり感を出したいわけではないんだよ。念のためにいうと。黒猫:だが、敷居は多少高くなる感は否めない。作者:コンセプチュアルであれってことだよね。それと、オリジナリティっていうのは、たとえば音楽でいうと、なにげないギター、ドラム、ベースだけの曲にシタールだとかカリンバなんかを入れることで生まれるところもある。それが楽曲のテーマと深く結びついているとき、その楽曲はコンセプチュアルであり、オリジナリティの高いものとなる。黒猫シリーズもいわばそういうふうにできているんだよ。黒猫:まあ、言われてみればそうか。作者:美学概念、ポオ作品解体、ほかの芸術家の解釈、そこに日常の謎を入れ恋愛要素を混ぜている。企画書にしたらボツになる話だ。黒猫:たしかに企画書にはしづらいかもしれない。作者:僕の作品は真正直に書けば書くほど企画書としては会議で通しづらいものばかりなんだ。だから、最近ではいかに企画会議を騙すかということを考えてプロットを書くようにはしている。黒猫:おいおい、騙すというと聞こえがわるい。作者:まあね。でも真正直に書くと、「要素が多い」となるわけ。だから、少なくとも企画上は要素をはっきりさせていく必要があるんだよね。でもじつはこの「要素の多さ」がオリジナリティにもなり、真の意味でのコンセプチュアルなものにするための必須条件でもあったりする。2点を
通るだけなら直線か曲線かわからないが、3点、4点と点を増やすことで、唯一無二の線になる。黒猫:なるほど。要素が多いのは、コンセプチュアルであれってことなわけね。作者:そういうこと。〈葬偽屋〉ではヴァニタス画のほかに、かならずそのモチーフにちなんだ歌謡曲や童謡なんかが登場する。それらのモチーフから、人の死のいろんな側面が見えてくるから、ライトな作風にみえて意外と重く響くところもあったりして、ただ面白かっただけでないような広がりがある読書体験になるんではないかな、と。黒猫:まあ、それはそうかもしれない。続編も書き上げたんだね?作者:うん。じつは、文庫版と単行本版だから、連続性を出すためにどうしようか迷ったんだけれど、同じく四月刊行ということで、丹地先生に装画をお願いするのが連続性という意味でもベストなのではないかということで、こちらもまだ書影がサイトなどにアップされてはいないけれど、相当素晴らしいから、覚悟しておいてくれと言いたい。黒猫:楽しみになってきたな。肝心の中身のほうはどうなんだ?作者:第一作から高浜セレナのモンスターペアレントの存在があったわけだが、第二作では彼女が自分の親にどういう決着をつけるのか、という物語になっている。他人の死、友人の死、自分の死、恋人の死、親の死、だいたい死というのはこの五つに分類される。多くの場合は、他人の死と友人の死を最初に経験しつつ、やがて親の死を経験し、恋人の死があり、自分の死へ至る。もちろん、その順番どおりでないことも多々ある。僕はまだ経験がないが、人の話を聞いているかぎりでは、親の死というのは、第二のへその緒が切れる体験にも近いのかもしれない。ヒロインのセレナが親の死とどう向き合うのか、という物語であり、彼女の成長物語にもなっていると思う。黒猫:成長物語か。そういえば、坊主の殺生歩武と、語り手の高浜セレナ、そのほかにもうひとり注目すべき人物がいるね。作者:偽の死体を制作する絶世の美男子にして同性愛者、黒村だね。じつは皆さんの感想などを読み漁っていると、殺生歩武をしのぐ勢いで黒村の人気が高い。そこで、その黒村を、今回、続編のほうでは丹地先生が表4(本の裏側)に描いてくださった!黒猫:おお! それは朗報だ。作者:中身のほうでも、第二話ががっつり黒村メインの話になっているので、そちらも楽しみに読んでいただければと思う。黒猫:ますます楽しみになってきた。作者:といったところで、今夜の活字ラジオはおしまい。黒猫:ちょっと待った。今回の刊行に関して、何かやらないのか? 特典は?作者:んん、何も決まっていない。でも何かしらはやるはずだよ。黒猫:来月を待て、というわけだな?作者:ちがう、まだ考えていないだけだ。黒猫:考えていると言っておきたまえ。作者:考えている。黒猫:もう遅い。ではでは本日はこのへんで……。作者:あ、さっき付き人にラインで「黒猫がある女の子のことを美脚だって褒めてた」って入れておいたよ。黒猫:……なぜそういう余計なことをするのかな君は。しにたいのかな。(骨を鳴らす)